装苑賞1993年4月号 稲葉賀恵先生 佐藤真樹

装苑1993年4月号 稲葉賀恵先生選

1993年、稲葉賀恵先生との対談

稲葉賀恵先生

もう少し衿のカットが大きいのかと思っていたけれど、そうでもなかったのね。
これはこれでいいんじゃない。
かわいいわ。

佐藤真樹

素材はどうでしょうか?
カシミヤ入りのダブルフェースのウールなんですが?

稲葉賀恵先生

このデザインに合っています。
いいと思うわ。
ただ、布地の値段を考えると、こういうストレートな形のときは、カシミアじゃなくても充分よ。
メルトンでも若々しい雰囲気に仕上がったと思います。

佐藤真樹

とにかく軽く作りたっかたので・・・。

稲葉賀恵先生

もちろん、この布地でもいいわよ。
これだと、かなり大人の女性でも着られそう。

佐藤真樹

靴はもう少しヒールのあるものを履かせたかったんです。
例えばブーツとか。

稲葉賀恵先生

ヒールはなくてもいいと思います。
ブーツでもローヒールのほうがいいわ。
頑張ってコーディネートしましたっていう感じでないほうがいいと思うの。
ほかのものは何も気にならなくて、しっかり見えてほしいのはシルエットとカーブのラインだけ、それだけなんだけれど、よく見ると細かいところまで気をつかっている。
そういう服でしょ。
衿はすっと立ち上がらせたかったのね。

佐藤真樹

はい。1枚の布で無造作に体を包んだ、そんな感じを出したいと思いました。

稲葉賀恵先生

このデザイン画の雰囲気を表現するには、あなたのやり方でよかったと思います。
だからこれは、あくまでも次回の参考に聞いてほしいんだけど、立ち上がった衿のカッティングには、肩線で切り替えるほかに、後ろの衿ぐりと衿の後ろ中心に縫い目を入れる手もあるのよ。
衿は前身頃からの裁出しで、後ろまで回していきます。
そうすると自然にゆとりが確保され、首になじんで着心地がいいの。
そういう着る人への思いやりがプロには必要なことだから、知っておいて損はないでしょう。

 

製作時の思い出

私の最後の装苑賞候補作品の、1点です。

このコートは、第67回装苑賞公開審査会をはさんで製作しました。

稲葉賀恵先生に選んでいただいた、3着目の服です。

稲葉賀恵先生に選んでいただいた服は、自然と地の目を縦方向に通してしまいます。

写真では見えにくいですが、前端のカーブのラインは完成度が高くなりました。

狙ったラインを、裁断できるようになりました。

このコートには、ボタンなどの留めるための付属品を全く使っていません。

ただ、包み込まれるイメージの服です。

カシミヤ入りのダブルフェースを、ほどいてリバーシブル仕立てにしました。

どこから見ても、縫い代や裏地が見えないコートにしたかったからです。

型紙は、大胆に単純に作りました。

しかし私は、ポケットの仕立て方を間違えてしまいました。

装苑の誌面には書いてありませんが、ポケットについて稲葉賀恵先生に指摘されました。

私は、ポケットの袋布(手前側)にスレキを使ってしまいました。

コートの前端から、ちらりとスレキが見えることがあります。

カシミヤ入りのダブルフェースを、1枚だけにほどいて袋布に使うべきでした。

服が完成した後、自分でも気付いたのです。

細かいことですが、ポケットの仕立て方などにはファッションデザイナーのセンスが出ます。

しかしコンテストで一回失敗すると、次からは気をつけるようになります。

私はこのコートの、後ろ姿の写真が気に入っています。

柔らかくカーブして、この服の優しさを表現しています。