装苑1992年8月号 稲葉賀恵先生 佐藤真樹

装苑1992年8月号 稲葉賀恵先生選

1992年、稲葉賀恵先生との対談

稲葉賀恵先生

ラペルの大きさが左右で違うのは、意図があってのことですか?

佐藤真樹

はい。どこもアンバランスにすることで、ニュアンスのある服にしようと思いました。
左右で丈の長さも違うし、ラペルの大きさも違う。
ジャケットのボタンをはずすと一見パンツスーツ風なのですが、実は後ろで続いているコンビネゾンだったりと、着たときにクスッと笑ってしまうような、おちゃめな感じが出せたらと思って作りました。

稲葉賀恵先生

現代的でかわいい服ですね。
あえて新しさの発見がある服ではないけれど、好感の持てる作品だと思います。
この素材は?

佐藤真樹

スーパーキッドモヘアです。

稲葉賀恵先生

きちんと生地名を言えた人って、今まで少なくて、その点あなたは素材にもこだわりを持つ人ね。
だからこのデザインの服にこういう上質なウールを使いたい気持ちはわかります。
だけど、この布地を使うのであったら、本格派のテーラード仕立てで、ラペルのエッジが立つくらいビシーッと作りたいですね。
そして帽子や靴でくずす。
そうすればこの作品のよさがグーッと引き立って、素晴らしいものになったと思います。
それを技術不足の人が作ろうとしても、もこもこするだけで、この布を使った意味がなくなってしまいます。

佐藤真樹

アイロンでかなり押さえたのですが、すぐに元に戻ってしまって。

稲葉賀恵先生

反発力の強い布だから・・・。
それならもっと使いやすくて打込みのいい、普通のウールを使ったほうがよかった。
それとこの帽子。
クラシックな服に、あえてくずした小物を合わせる着方はおもしろいのだけれど、頭の入る分量が少ないから帽子が持ち上がってしまって、かわいいモデルさんがきれいに見えないでしょ。
バランスとしては、もっと深めにかぶせてあげたほうがすてき。
些細なようだけれど、そこまで考えてあげてね。

 

製作時の思い出

稲葉賀恵先生に初めて選んでいただいた、デザイン画です。

それから私は、3回連続で稲葉賀恵先生にデザイン画を選んでいただきました。

このデザイン画は、筆ペンではなく木炭を使ってシルエットを描きました。

木炭で線を描いているので、下書きなしでシルエットを決めました。

彩色は、ソフトパステルを使いました。

このころの私は、新しいデザイン画の表現を考えていました。

試行錯誤の結果、いい感じのデザイン画になりました。

このデザイン画の服の製作は、既存の技術の組み合わせです。

この服は、ジャケットの前をあけるとサスペンダーが現れます。

稲葉賀恵先生が、
「あえて新しさの発見がある服ではないけれど、好感の持てる作品だと思います。」
と言ってくださったままの服です。

服は少しデザインを変えるだけで、技術的なことが数段難しくなることがあります。

この服が、まさにそうでした。

まずは、型紙が複雑(左右違う型紙です)になります。

そして何より難しいのが、縫製です。

縫製には、特に時間がかかりました。

この布地は、日暮里のエレガンスさんで買いました。

これは、ヨウジヤマモトの残りの布地でした。

昔の日暮里では、

などのブランドの残布が売られていました。

この服を作った数ヶ月後、この布で作られたヨウジヤマモトの服が店に並びました。

スッキリした縫製で、私が縫った服とは全く違いました。

この帽子は、文化服装学院の授業で作りました。

ブレードを、帽子の木型に巻いて作りました。

そして、このブレードを手まつりしました。

すごく時間がかかった、帽子です。

縫い終わった帽子を潰して、スプレーで形を固定しました。

潰しすぎて、頭が入る分量が少なくなりました。

帽子は、自分で被り慣れないと難しいアイテムです。

 

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